民間経営の世界では、MBA(Master of Business Administration、経営学修士)という、いわば資格があります。MBAの習得過程では、経営戦略や組織、会計、財務、マーケティングなど、経営に関するさまざまな知識やスキルを身につけることができます。
欧米ほどではないものの、日本でもMBA取得者が増えつつあります。MBAを取得しよう(あるいはさせよう)とする動機はさまざまでしょうが、企業間競争や経営のグローバル化に伴って、ビジネスの基礎的な知識やスキルの必要性が高まっていることが、当然のことながら、その背景にあるでしょう。
翻って、前述したように、民間企業経営で培われてきた経営手法やノウハウが、今後の自治体経営の「切り札」であると考えた場合、「MBAが自治体を救う(か?)」との仮説が成り立つでしょう。
この仮説に対する答えは、残念ながら「ノー」です。
理由はとても簡単です。ひと言でいえば、自治体経営では、民間企業経営のような明確な「ものさし」がない、ということです。
民間企業経営は、これまでにも繰り返し述べてきているとおり、利益を生み出すこと自体が目的ではありません。あくまでも、これらは、企業の社会的な責任を果たすための「手段」に過ぎません。しかしながら、利益を生み出すことができない企業は、当然のことながら社会から淘汰されてしまいます。その点で、利益は、企業にとって、社会的に存在意義が認められているかどうかの、一つの「ものさし」として機能するわけです。
一方、自治体経営の場合、利益そのものは、自治体の存在意義を肯定するものではもちろんありません。仮に、歳入に対する歳出を「利益」とみなした場合、利益を生み出すことはとても簡単です。つまり、予算の一部または全部の執行をストップすればよいのです。
民間企業が同じことをした場合どうなるでしょうか?商品やサービスの提供・販売といったことをストップしてしまえば、当然のことながら売上げはなくなります。もちろん、利益を生み出すことはできません。
このように、民間企業経営と自治体経営とでは、前提となる条件がまったく異なっているのです。したがって、単純に民間企業経営の「物真似」をしてみたり、無理な当てはめ(たとえば、「自治体版○○」などが典型的な例です)をしようとしたところで、ほとんど意味をなさない、と考えるべきです。したがって、MBAは自治体を救うことはできません。
こういってしまうと、身も蓋もないかもしれませんが、事実、「民間」的経営手法によって自治体経営が良くなったという話を聞いたことがありません。
では、どうすべかのか?
答えも簡単です。「良く考える」ことです。
これまでの自治体経営では、考えることをしてきませんでした。勢い、過去の事例、他の自治体の事例など、「答え」探しをすることが習慣として身に付いてしまっています。これは、能力の問題ではなく、習慣の問題です。いわば、「生活習慣病」から脱することが、これからの自治体経営にとって必要なことなのです。
現在の自治体経営のキーワードとして使われている「民間」の意味合いは、単に、「答え」探しの対象を、過去の事例や他の自治体から、民間企業に変えただけに過ぎません。
「答え」探しをやめ、「答え」を「見つけ出す」ためのスキルを身につけなければならないのです。
パブリシヴァでは、今後も、こうした観点から、答えを見つけ出すための有益な情報の提供に努めてまいります。